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ソーシャルマーケティング
パフォーマンス指標
ブランデッドコンテンツ
マーケティングROI
顧客エンゲージメント

2010年7月16日

オンラインでの購買コンバージョンにつながる「エンゲージメントマーケティング」の効果: ブランデッドコンテンツROI - 高級ラグジュアリーブランド

ある世界的なラグジュアリー製品を扱う有名ブランドは、自社の新しいeコマース・サイトをリリースするためのプロモーション・プログラムを必要としていました。同社のコンペの要件定義書で求められていたのは、日本のeコマース・サイトのアクセス数を増やす「ブランドキャンペーン」であり、購買コンバージョン(成約)を最終的な成功の指標とすること、キャンペーンはデジタル・マーケティングを主体とし、オフラインでのプレゼンスを最小限に抑えることで統一性のあるマーケティング・メッセージを保つこととされました。

ここでの課題は、キャンペーンのターゲット層がブランドの主たる顧客層(および主力製品カテゴリー)ではないところでした。従って「ブランドキャンペーン」の提案は、実質的には新規の対象顧客の関心を引き、その上で愛着を育むリレーションシップ・マーケティングのアプローチで企画・構成されました。更に、同提案はマーケティング施策の実施を最適化し、実施内容の投資収益率(ROI)を測定する、綿密なパフォーマンス管理のアプローチに重きを置きました。

ブランデッドコンテンツと顧客エンゲージメント

プロモーション・プログラムは、まず顧客の関心を引きよせ、そして購買へと促すために、コンテンツ、コミュニティ、そして製品を適切な形でミックスしたものとなりました。特にブランドと関連性の高いコンテンツ(ブランデッドコンテンツ)は、顧客の関心を醸成し、個人のブランドへの愛着を促進させるにあたり、とても高い効果が期待できました。

前述の要件を満たすために検討されたプログラムの中心は、ターゲット顧客層とブランドの繋がりを作り、強化するためのオンラインマガジンの開発でした。記事と動画のコンテンツは、ターゲット顧客層のライフスタイルに通じるブランドバリュー(ブランドの価値)に重点を置き、興味や関心の共通性に基づいて形成される様々なコミュニティ(コミュニティ・オブ・インタレスト、COI)にもブランド連想を拡大することを目指しました。

マルチチャネル的要素を持つプログラムでありながらも、ブランドと顧客とのより深い関係の確立(エンゲージメント)のために必要不可欠だったのはオンラインでした。マガジン形式のコンテンツは、顧客の関心を集める上で重要な役割を果たし、かつオンラインでの販売を促進する上でのメディア・プラットフォームを提供しました。その意味で、ブランデッドコンテンツは顧客のデジタルメディアを使った情報の探し方、係わり方の傾向を上手に活用したと言えるでしょう。

顧客が辿るブランド体験の旅「カスタマージャーニー」

潜在顧客を魅了し、増やす基盤となったのは、特別に開発されたコンテンツです。オンライン/オフライン・プロモーションと共に展開するオンライン広告で最初のトラフィックを誘導した後に、リピート訪問、ソーシャルメディア、コミュニティ・オブ・インタレスト(COI)からのリファーラル(紹介)リンク、自然検索結果を通して継続的なトラフィックが形成されました。

ブランデッドコンテンツ、デスティネーションサイト

継続的なトラフィックの流れの6割は、様々なCOIに係るリファーラルリンクと検索結果から生まれており、この結果は、コミュニケーション計画における大きな側面がソーシャルマーケティングであることを如実に示しています。顧客はこのブランドを自分たちの関心に沿うものとして受け止め、こうしたコミュニティとの繋がりが持続関係を更に後押ししたのです。

オンラインマガジンは、ブランド/製品マーケティングのための自然な媒体形式を提供しました。ここで期待されたのは、コンテンツ連動型広告(つまり、ラグジュアリー製品を相応しいライフスタイルに関連性を持たせて表現すること)の高い効果です。このプログラムの過程で、コンテンツ連動型広告が最高の結果を出したのは記事広告(アドバトリアル)による製品プロモーションであり、製品コンテンツを見た来訪者の約5割がeコマースのサイトへ遷移しています。顧客は主にコンテンツの内容とブランド連想に反応しており、それはアクセス毎の複数の露出やリピート訪問で一層強化されています。

パフォーマンス管理

このプログラムは、極めて具体的なeコマースのトラフィックと販売目標を対象にしているため、主要業績指標を特に注視し、オンライン上で行われるあらゆる事項について継続的な評価と最適化を行いました。この点において、プログラムはウェブ活動の計測性と結果の実証を有効に活用したことが判ります。

キャンペーン予算の大部分は、初期の顧客基盤作りのためのオンライン広告に充当されていました。これら複数の媒体に掲載された広告に対しては、異なる広告表現でコンバージョンの効果を検証する「A/Bテスト」または複数の可変要素をテストし最適な組み合わせを検証する「多変量テスト」の実施と継続的な最適化が行われました。このプロセスにはクリエーティブの実装や多様な広告なども含まれました。

また、このマガジンサイトが、訪問の満足度やリピート訪問を促す上でどのような効果をもたらすかに重点を置いたユーザー追跡と分析も実施されました。なかでも最重要ポイントだったのは、このマガジンがeコマース・サイトまで遷移させるメディア・プラットフォームとしての価値があるかということの検証でした。

最後に、eコマース・サイトへのリファーラル(紹介)トラフィックをモニターし、購買コンバージョンの効果について評価を行いました。エンゲージメントプログラムのリファーラルトラフィックを製品の直接広告と比較し、相対的なマーケティングROIを算出したのです。

ブランデッドコンテンツROI

6ヶ月間にわたって実施されたエンゲージメントプログラムの主な結果をまとめたものが、購買コンバージョンまでの過程を示す「購買コンバージョン漏斗(ファネル)表」です。キャンペーンの結果は、オンラインでのエンゲージメントマーケティングの全般的な効果を強く裏付けるものとなりました。

  • 訪問者誘致:コンテンツ広告へのレスポンスは3倍
    • - コンテンツ広告は、比較対象であるブランドキャンペーン広告の常に2~4倍の誘致効果が得られた。(下表の「広告レスポンス」を参照)
    • - 比較の対象であるブランドキャンペーンは、最適化の結果35%改善し、総体的に低くても広告代理店のクリックスルー・レート(CTR、クリック率)と同レベルの実績を出した。このことから、コンテンツ広告はより良いだけではなく、極めて効果的で費用効率も高いことがわかる。
  • 購買行動の実行:ブランデッドコンテンツの購買コンバージョンは8倍
    • - ブランドとの絆(ブランドエンゲージメント)を強化することで、より高い売上につながる。(下表の「購買」を参照)
    • - 高品質で関連性の高いブランデッドコンテンツ媒体を通して、より効果的なブランド/製品広告を展開する状況をもたらす。

購買コンバージョン漏斗

オンライン広告はキャンペーン予算全体の約4~5割を占め、残りの予算は特別コンテンツの開発に充てられました。このオンライン広告対コンテンツ開発の比率からみると、今回のコンテンツ主体のプログラムの総合的なマーケティングROIは、伝統的な「ブランドキャンペーン」広告アプローチの3~4倍になっていることが推測できます。

2つのタイプのキャンペーンを効率良く比較するために、今回の分析期間は短期(1ヶ月以内)としました。これによりコンテンツ主体のキャンペーンが極めて効果的であることが数値で示された一方で、エンゲージメントプログラム自体の総合的な効果が十分に評価されなかったという点も否めません。

購買コンバージョン漏斗表で「ロングテール」効果と示した通り、ブランデッドコンテンツのより長期的な効果は今回の分析には含まれていませんが、広告の初期段階を経て、実装したこのマガジンの読者数は安定し、かつ増加していきました。長期にわたるリピート訪問者及び拡大を続けるCOIのリファーラルネットワークからの新規来訪者は、キャンペーン投資に相当規模のロングテールを付与しているといえるでしょう。また、eコマース・サイトまで遷移した、あるいは店舗検索機能を使用した来訪者の比率がリピート訪問者比率とともに増加していることから、長期比較の結果は更に圧倒的なものになると推測されます。

結論

広告予算がデジタル・マーケティングにシフトするなかで、計測性とマーケティングROIは多くの企業の最大関心事になっています。今回の事例では、パフォーマンス管理によりリアルタイムに反響を把握することで、広告への初回接触から購買コンバージョンまで、顧客のブランド体験の全行程において継続的な改善を実現しました。比較的短期間のプロモーションキャンペーンながら、最終的な結果として総合的なマーケティングROIは、顧客との関係構築を重視したリレーションシップ・マーケティングのアプローチの成果を裏付けるものになりました。

最後に、これらの結果は、企業が特別コンテンツの開発とリリースに対するオンライン向け予算を増加しているというトレンドも裏付けています。コンテンツの内容とコミュニティはブランドとマーケティングの目的によって変化するものの、ブランディングされたメディアはブランドエンゲージメントを促進し、かつ購買への転換実績を相応にもたらします。コンテンツ、コミュニティ、製品/サービスのミックスは、総合的なマーケティングROIを著しく上昇させると言えるでしょう。

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